遺産分割協議書の作り方|決まった様式はありません。でも「通らない協議書」はあります

「遺産分割協議書って、どんな紙に書けばいいんですか」

ご相談でよくいただく質問です。答えは「決まった様式はありません」。手書きでもパソコンでも、便箋でもコピー用紙でも構いません。法律で書式が定められた書類ではないからです。

ところが、インターネットで見つけたひな形どおりに作ったのに、法務局や銀行の窓口で「これでは受け付けられません」と言われてしまう——これもよくあります。様式が自由なのに、なぜ止まるのか。ここを先にお伝えします。

遺産分割協議書は「誰かに提出するため」の書類です

遺産分割協議書は、相続人の間で話し合って決めた分け方を、書面にして残したものです。ただ、作る目的の大半は「記録に残すこと」ではありません。手続きの窓口に出すことです。

出す先 何のために
法務局 不動産の名義変更(相続登記)。誰がどの不動産を取得したかを示します
金融機関 預貯金の解約・払戻し。相続人全員の同意があることを示します
運輸支局 自動車の名義変更。価額100万円以下の場合は簡易な書式でも扱われます
税務署 相続税の申告。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合の添付書類になります

つまり、読み手は身内ではなく、窓口の担当者です。「うちの家族の話し合いはこうまとまりました」という気持ちが伝わる文章であっても、窓口が必要としている情報が抜けていれば、そこで止まります。様式が自由なのに通らない協議書が生まれるのは、このためです。

作る前に決着させること:相続人が誰なのか

遺産分割協議は、相続人全員が参加して成立します。一人でも欠けたまま作った協議書は、その効力が認められません。作り直しです。

「うちは兄弟3人だけだから分かっている」という場合でも、戸籍をたどると別の方が出てくることがあります。実務でよく出会うのは次のようなケースです。

  • お父さまに前の婚姻でのお子さんがいた(その方も相続人です)
  • お子さんのいないご夫婦で、ご兄弟・甥姪まで相続人が広がった
  • 相続人の一人が先に亡くなっていて、その方のお子さんに引き継がれていた(代襲相続)
  • 相続の手続きをしないうちに次の相続が起きて、関係者が十数人になっていた(数次相続)

これを確かめる方法は一つで、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべてつなげて読むことです。2024年3月から、本籍地でなくても最寄りの区役所などでまとめて請求できるようになりました。手順は戸籍の広域交付の記事にまとめています。

ここで確定した内容は、相続関係説明図という一枚の図にしておくと、その後のすべての窓口で説明が早くなります。さらに法務局に申し出て法定相続情報一覧図の写しを交付してもらうと、戸籍の束を持ち歩かずに済みます。手数料はかかりませんし、必要な通数を出してもらえるので、法務局・銀行・証券会社を同時に進められます。この申し出は行政書士が代理でお手伝いできます。

実印と印鑑証明書——ここが一番の山になります

遺産分割協議書そのものに、法律上「実印で押すこと」という決まりがあるわけではありません。それでも実務では、相続人全員が実印を押し、全員分の印鑑登録証明書を添える形が求められます。法務局も金融機関も、本人が納得して署名したことをその方法で確認しているからです。

江戸川区にお住まいの方の場合、印鑑登録証明書の取り方は次のとおりです。

  • コンビニ交付:1通200円(マイナンバーカードと4桁の暗証番号。午前6時30分〜午後11時、土日祝も可)
  • 窓口:1通300円(区役所区民課・各事務所。葛西事務所などでも取れます)
  • 窓口では、きみどり色の印鑑登録証をお持ちいただければ代理の方でも取得できます(委任状は不要)

遠方に住むご兄弟がいる場合、ここが一番時間のかかるところです。協議書の文面が固まる前から、印鑑登録がお済みかどうかだけは確認しておくと、後の待ち時間が短くなります。印鑑登録をしていない方は、まずその手続きからになります。

なお、印鑑登録証明書の有効期限について。相続登記では、印鑑登録証明書の作成からの期間は問われません。一方、金融機関では「3か月以内」「6か月以内」といった条件を設けているところがあります。先に金融機関に確認してから取りに行くと、取り直しを避けられます。

止まりやすい書き方、止まらない書き方

窓口で差し戻される協議書には、いくつか決まったパターンがあります。よく見るものを並べます。

止まりやすい書き方 直し方
「中葛西の自宅は長男が相続する」 登記事項証明書のとおりに書き写します。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積。住居表示(郵便物の住所)とは別物です
「○○銀行の預金は長女が相続する」 金融機関名・支店名・預金の種別・口座番号まで書きます
マンションなのに敷地の記載がない 敷地権の表示も忘れずに。私道の持分が別の地番で残っていることがあり、これが抜けたまま登記が終わってしまう例もあります
後から出てきた財産の定めがない 「本協議書に記載のない財産および後日判明した財産は、○○が取得する」の一文を入れておくと、作り直しを避けられます
用紙が複数枚あるのに何もしていない 全員の実印で契印を押します(製本テープで綴じた場合は、その境目に押す形でも扱われます)
1通だけ作って誰かが保管 相続人の人数分を作り、全員が1通ずつ持つ形が扱いやすいです。窓口には原本を提出し、返してもらう(原本還付)こともできます

署名はご本人の自筆で、住所は印鑑登録証明書のとおりに書きます。日付は、実際に話し合いがまとまった日を入れます。

署名や押印ができない方がいるとき

相続人の中に次のような方がいる場合、協議書の書き方以前の問題になります。ここは正直にお伝えしておきます。

  • 未成年のお子さんがいる場合——親権者も相続人であれば、親子で利益がぶつかります。家庭裁判所に特別代理人を選んでもらってから協議します(お子さん1人につき1人)
  • 判断能力が下がっている方がいる場合——ご家族が代わりに署名することはできません。家庭裁判所で成年後見人等を選んでもらう手続きが必要になります
  • 連絡が取れない方がいる場合——不在者財産管理人の選任など、やはり家庭裁判所の手続きになります

いずれも家庭裁判所に出す書類ですので、行政書士は申立書を作成できません。この段階が見えた時点で、弁護士または司法書士へおつなぎします。「協議書だけ先に作っておきましょう」とは申し上げないほうが、結果的に早く終わります。

また、話し合いそのものがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停になります。そこも弁護士の領域です。

「急がなくていい」と思っていると、期限が二つ来ます

遺産分割協議そのものに期限はありません。10年後に話し合っても、協議は成立します。ただ、放っておくと不利になる期限が二つあります。

  • 2027年3月31日——相続登記の義務化。2024年4月より前に発生していた相続にも適用され、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象になります(くわしくはこちら
  • 2028年3月31日——遺産分割の10年ルール。この日を過ぎると、生前の援助や介護の貢献といった事情を主張しにくくなります(くわしくはこちら

とくに二つめは、「同居して面倒を見てきた」「事業を手伝ってきた」という方ほど影響を受けます。分け方の話し合いが長引いているご家庭こそ、この日付を意識しておかれるとよいと思います。

それから、生活費のこと。協議がまとまるまで口座は凍結されたままですが、1つの金融機関につき150万円を上限に、単独で払戻しを受けられる制度があります(相続開始時の残高×3分の1×ご自身の法定相続分の範囲内)。葬儀費用や当面の生活費でお困りの場合は、この方法があることを覚えておいてください。

当事務所でお手伝いできること

遺産分割協議書の作成は、当事務所の中心の業務です。文面をお作りするだけでなく、その前後でつまずきやすいところをまとめて引き受けます

  • 相続人の確定と相続関係説明図の作成——出生からの戸籍をつなげて、相続人を確定します
  • 法定相続情報一覧図の作成と法務局への申出——代理でお手続きできます
  • 財産目録の作成——不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書、残高証明書を集めて一覧にします
  • 遺産分割協議書の作成——登記や解約の窓口で通る形に整えます。後から財産が出てきたときの定めも入れます
  • 預貯金の解約・払戻しの手続き自動車の名義変更

ご相談は、まず「相続人が誰で、財産に何があるか」を一緒に整理するところから始めます。分け方が決まっていない段階でも構いません。むしろ、決まる前にご相談いただいたほうが、選べる形が多く残っています。

※すでに相続人の間に争いがある場合、また家庭裁判所での手続き(調停・特別代理人・成年後見・不在者財産管理人など)は弁護士・司法書士の領域です。ご相談の中でその必要が見えた場合は、早い段階で率直にお伝えします。不動産の登記は提携司法書士、相続税の申告は税理士へおつなぎします。
※戸籍の取り寄せのみを切り離したご依頼はお受けしておりません。相続関係説明図や遺産分割協議書の作成に必要な範囲で取り寄せる形になります。

おわりに

遺産分割協議書は、ご家族の話し合いの結論を、手続きの窓口が受け取れる言葉に翻訳した書面です。話し合いそのものはご家族にしかできません。翻訳の部分は、私たちがお引き受けできます。

まずは、亡くなった方の権利証・固定資産税の納税通知書・通帳を並べてみるところから。それだけで、書くべきことの半分は見えてきます。手が止まったら、そのときにご連絡ください。

相続が始まって間もない方は、親が亡くなった直後にやることもあわせてご覧ください。


アイアグリー行政書士事務所(東京都江戸川区・葛西)

終活・遺言・相続を専門にしています。対面でのご相談を大切にしています。

  • 初回相談:4,400円(税込・60分)/ご依頼時は業務料金に充当します
  • 対応地域:江戸川区(葛西・西葛西・船堀・小岩・瑞江ほか)/江東区・市川市など近隣
  • ご相談内容:遺産分割協議書の作成・相続人調査(相続関係説明図)・法定相続情報一覧図の作成と申出・財産目録の作成・預貯金や自動車の名義変更・遺言書の作成(原案の作成・公正証書遺言の段取り)・遺言執行者・死後事務委任・おひとり様支援 など
  • 登記は提携司法書士、争いのある案件は弁護士、相続税は税理士へおつなぎします

お問い合わせ:03-6808-4411 / https://iagree.jp/contact

※この記事は2026年9月5日時点の制度・公表情報にもとづいています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的なご判断は専門家にご確認ください。
※参考:民法906条・907条・909条の2、不動産登記法76条の2、法務局「相続登記ガイドブック(東京ブロック管内法務局)」、法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」、裁判所「特別代理人選任の申立書(遺産分割協議)」、江戸川区「印鑑登録証明書」「証明書コンビニ交付サービス」

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