デジタル終活|エンディングノートを書きながら、スマホの中を整理してみませんか
通帳や郵便物なら、ご家族が引き出しを開ければ見つかります。でも、スマホの中の契約は画面のロックが開かない限り、そこにあることすらわかりません。この記事では、ご家族が困らないために今日できる備えを、「紙1枚」から順にお伝えします。
携帯電話会社でも、ロックは解除できません
まず知っておいていただきたいことがあります。亡くなった方のスマホを携帯電話会社の窓口に持っていっても、「初期化はできますが、画面ロックの解除はできません」と案内されます。国民生活センターの注意喚起(2024年11月)でも、この点が取り上げられています。
初期化すれば、中のデータはすべて消えます。写真も、連絡先も、どのネット銀行を使っていたかの手がかりも残りません。つまり、ロックの番号を知っているのはご本人だけ、という状態のまま亡くなると、ご家族はスマホの中を調べる手段をほとんど失います。
暗証番号を何度も間違えると、機種によっては操作できなくなったり、データが消えたりする設定もあります。「誕生日かな」「車のナンバーかな」と試しているうちに開かなくなった、というお話も珍しくありません。
スマホの中にある「見えない契約」
ご家族が困りやすいのは、次のようなものです。
| 種類 | ご家族が困ること |
|---|---|
| ネット銀行・ネット証券 | 通帳や郵便物がなく、口座があること自体に気づけない。相続財産から漏れてしまう |
| コード決済・電子マネーの残高 | 残高がいくらあるのか確認できない。相続の手続きに時間がかかる |
| サブスク(動画・音楽・アプリなど) | 何の契約かわからず、解約の手続きが進まない |
| 暗号資産(仮想通貨) | 取引所の名前がわからないと探しようがない |
| 写真・連絡先・メッセージ | 葬儀の連絡先がわからない。遺影に使える写真が取り出せない |
上の3つ(銀行・証券、決済の残高、暗号資産)は、相続財産です。気づかないまま遺産分割を終えてしまうと、後から見つかったときに、もう一度相続人全員で話し合う必要が出てきます。
今日できる備えは、まず「2つだけ」
デジタル終活というと、「すべてのIDとパスワードを書き出しましょう」と言われがちです。でも、それを一度にやろうとすると、たいてい手が止まります。それに、パスワードを全部書いた紙は、なくしたときの危険も大きくなります。
まずは、次の2つだけで十分です。
① スマホの画面ロックの番号を、紙に書いておく
いちばん大事なのはここです。スマホさえ開けば、ご家族はメールや通知から、契約しているサービスをある程度たどることができます。逆に、ここが開かないと何も始まりません。
書いた紙をそのまま置いておくのが心配な方は、書いた番号の上に修正テープを貼って隠しておく方法があります。普段は見えず、もしものときにご家族が硬貨でけずれば読めます。けずった跡が残るので、誰かが勝手に見たかどうかもわかります。国民生活センターもこの方法を紹介しています(デジタル遺品に詳しい古田雄介さんが「スマホのスペアキー®」として提案している方法です)。
置き場所は、保険証券や通帳と同じところがおすすめです。ご家族がもしものときに最初に開ける場所だからです。
② 使っているサービスの「名前」だけ、一覧にしておく
IDやパスワードは書かなくて構いません。「○○銀行(ネット)」「○○証券」「PayPay」「動画のサブスク」——名前がわかるだけで、ご家族は問い合わせ先にたどり着けます。パスワードがわからなくても、多くのサービスには、ご遺族向けの相続・解約の窓口があります。
この一覧は、エンディングノートに書いておくのが自然です。書いているうちに、実は「遺言書の手前」の大事なことが見えてきます。これは後の章でお話しします。
スマホに備わっている「引き継ぎ」の機能
iPhone や Android(Google)には、もしものときに家族がデータを受け取れるようにする機能があります。設定は数分で終わります。
| 機能 | しくみ | 注意点 |
|---|---|---|
| iPhone(Apple) 「故人アカウント管理連絡先」 |
あらかじめ指定した人が、ご本人の死後にアクセスキーと死亡の事実がわかる書類(日本では戸籍)を出して申請すると、写真・メモ・ファイルなどのデータを受け取れます | パスワード類や支払い情報、購入した音楽・映画などは引き継げません。アクセスキーを相手に渡しておく必要があります |
| Google 「アカウント無効化管理ツール」 |
一定期間使われなかったときに、指定した人(10人まで)へ通知し、選んだデータを共有できます | 待機期間が過ぎるまで動きません。届く相手の電話番号での本人確認があります |
どちらも「写真や思い出のデータを受け取る」ための機能で、銀行口座の解約や財産の相続まで済ませてくれるものではありません。そこは次の章の話になります。
エンディングノートを書きながら、考えてみる
使っているサービスの名前を書き出していくと、ところどころで手が止まります。
- 「このネット証券の口座、子どもたちのどちらに渡そうか」
- 「スマホの写真、家族に見られたくないものもあるな」
- 「SNSは消してほしい? それとも、しばらく残しておいてほしい?」
この「迷ったところ」が大事です。エンディングノートは自由に書けて、何度でも書き直せます。いきなり遺言書を書こうとすると身構えてしまいますが、ノートなら鉛筆で書いて、消して、また書けます。考えるための道具として、ちょうどよいのです。
ただし、エンディングノートには法的な効力がありません。「この口座は長女に」と書いても、そのとおりに分けてもらえるとは限りません。そこで、書きながら出てきたことを、次の3つに仕分けてみてください。
| 書きながら出てきたこと | たとえば | 書いておく場所 |
|---|---|---|
| 家族に知らせておきたいこと | ロックの番号をしまった場所、使っているサービスの名前、写真の取り出し方 | エンディングノート |
| 財産を誰に渡すか | ネット銀行・ネット証券、暗号資産、コード決済の残高 | 遺言書 |
| 亡くなった後の後片づけ | スマホやサブスクの解約、SNSの削除 | 死後事務委任契約(おひとりの方、ご家族に頼みにくい方) |
まん中の「誰に渡すか」で迷ったところが、そのまま遺言書に書くことの下書きになります。ノートで迷っておいた分だけ、遺言書の相談はぐっと短く、具体的になります。
なお、ノートに書くのは「どこに何があるか」までにしておきましょう。ロックの番号そのものは、修正テープで隠した別の紙に書き、ノートには「番号は通帳と同じ引き出しにしまってある」とだけ書いておくと安心です。エンディングノートは、法務省も公開しています。
遺言書にパスワードは書かないでください
ノートを書いて「これは長男に」と決まってきたら、遺言書の出番です。このとき「ついでにパスワードも遺言書に書いておけば」と考える方がいらっしゃいますが、これはおすすめしません。
- 自宅で保管していた自筆の遺言書は、家庭裁判所の検認で相続人がそろって中身を確認します。パスワードが多くの人の目に触れます
- パスワードを変えるたびに、遺言書を書き直すことになります
- 遺言書は「誰に何を残すか」を決める書類です。パスワードを書いても、手続きが楽になるわけではありません
遺言書に書くべきなのは、ネット銀行や証券口座も含めて、財産を誰に渡すかです。財産目録に金融機関名と支店名(ネット銀行なら銀行名)を載せておけば、ご家族はそこから手続きに進めます。法務局に遺言書を預ける方法は自筆証書遺言書保管制度の記事でご紹介しています。
すでに相続が始まっていて、後からネット口座が見つかるかもしれない——そんなときは、遺産分割協議書に「後から見つかった財産の扱い」の一文を入れておくと、話し合いをやり直さずに済みます。詳しくは遺産分割協議書の作り方をご覧ください。
解約や削除まで任せたい方は「死後事務委任」
おひとりの方や、ご家族に負担をかけたくない方には、死後事務委任契約という方法があります。亡くなった後の事務を、生前のうちに信頼できる人に頼んでおく契約です。
デジタルの面では、たとえば次のようなことを頼んでおけます。
- スマホ・インターネット回線の解約
- サブスクや有料会員サービスの解約
- SNS アカウントの削除や、追悼のための設定
- メールで知人に亡くなったことを伝える
契約書に「どのサービスを、どうしてほしいか」を書いておけば、受けた人が迷わずに動けます。相続財産そのものの分け方は遺言、それ以外の後片づけは死後事務委任、と分けて考えるとわかりやすくなります。
当事務所でお手伝いできること・できないこと
| お手伝いできること | 当事務所では行わないこと |
|---|---|
|
・使っているサービスの洗い出しと一覧づくり ・ネット口座を含めた財産目録の作成 ・遺言書の原案作成、公正証書遺言の段取り ・死後事務委任契約書の作成、受任者としての事務 ・相続が始まった後の遺産分割協議書の作成 |
・ロックがかかったスマホの解除、データの復旧(専門の業者の領域です) ・解約トラブルや不当な請求の交渉(江戸川区消費者センター 03-5662-7637/平日9時〜16時、または消費者ホットライン188 へ) ・相続人の間で争いがある場合(弁護士へおつなぎします) |
当事務所では、IDやパスワードそのものをお預かりすることはしていません。お預かりするのは「どこに何があるか」の一覧と、それをどう引き継ぐかの段取りです。
おわりに
デジタル終活は、むずかしい設定から始める必要はありません。スマホのロックの番号を紙に書いて、通帳と同じ場所にしまう。今日やることは、それだけで構いません。
その次は、エンディングノートにサービスの名前を書きながら、手が止まるところを見つけてみてください。そこが、遺言書や死後事務委任で手当てしておくところです。
サービスの一覧づくりや、遺言・死後事務委任との組み合わせで迷ったら、そのときにご相談ください。
相続が始まって間もない方は、親が亡くなった直後にやることもあわせてご覧ください。
アイアグリー行政書士事務所(東京都江戸川区・葛西)
終活・遺言・相続を専門にしています。対面でのご相談を大切にしています。
- 初回相談:4,400円(税込・60分)/ご依頼時は業務料金に充当します
- 対応地域:江戸川区(葛西・西葛西・船堀・小岩・瑞江ほか)/江東区・市川市など近隣
- ご相談内容:遺言書の作成(原案の作成・公正証書遺言の段取り)・死後事務委任・財産目録の作成・遺産分割協議書の作成・相続人調査(相続関係説明図)・法定相続情報一覧図の作成と申出・預貯金や自動車の名義変更・遺言執行者・おひとり様支援 など
- 登記は提携司法書士、争いのある案件は弁護士、相続税は税理士へおつなぎします
お問い合わせ:03-6808-4411 / https://iagree.jp/contact
※この記事は2026年10月3日時点の公表情報にもとづいています。各サービスの機能や手続きは変更されることがありますので、最新の内容は各社の案内をご確認ください。
※参考:独立行政法人国民生活センター「今から考えておきたい『デジタル終活』」(2024年11月20日)、Apple サポート「故人アカウント管理連絡先」、Google アカウント ヘルプ「アカウント無効化管理ツール」、民法1004条(遺言書の検認)、江戸川区消費者センター「消費者相談」、古田雄介「スマホのスペアキー®」
